フレスコとは

一般に言うフレスコとはレンガの壁などに、砂と石灰を混ぜた材料で壁を塗り、その壁が生乾きのうちに水だけで溶いた絵の具で描く技法をいいます。ブオン・フレスコと呼ばれるこの方法は、壁の石灰が硬化するときに起きる反応によって、画面の顔料が壁に取り込まれて、色つきの大理石のようなものが作られるといってもよいのです。接着剤の劣化がないため、顔料の色がそのまま変化せず美しさを保ちます。イタリアトスカーナ地方に生まれた、画家ジョットによって確立されたこの方法は、ルネッサンス期の教会建築とともに大きく発展し、今でもヨーロッパに広く見られます。

一方、アジアにも石灰の壁の上に描かれた壁画があります。中国敦煌の莫高窟の仏教壁画は石を穿って造った石窟に土や石灰を塗り、乾燥させてから接着剤を入れて描きました。日本の高松塚古墳の壁画も同様です。フレスコを石灰の壁の上に絵を描く技法ととらえると、フレスコの仲間として捉えることができます。乾いた石灰の壁(漆喰壁)に顔料と接着剤を混ぜて絵を描きます。この方法はフレスコ・セッコの方法の一つと言えます。

「フレスコ」は石灰の産するところならどこでも描かれる可能性があります。人類最古の絵画と言われるアルタミラやラスコーの洞窟壁画は石灰岩の上に描かれ、天然のフレスコ現象によって絵画は石灰岩の岩に定着したのです。

洞窟生活以来、人間は自然界で目にする森羅万象への、感謝、畏れ敬う気持ちを持って絵を描いてきました。古代からの技法フレスコは絵画の原点でもあります。自然素材だけを用いて作るフレスコは、いわば、スローフードのような技法です。

 大野 彩